第3話:魔法の秘薬を探せ


ひまわりは困っていた。

いつものように放課後、
雨夜家の一室に開設された「魔法相談所」で
太陽と机をはさんで対面しているのだが、
ここ数日、ずっと太陽の機嫌が悪いからだ。

そんなイライラ太陽と
毎日ずっと一緒に
狭い空間で二人きりにさせられているわけだから、
精神的な疲労が半端ではない。
ひまわりを困らせている
太陽のイライラの原因が何かというと・・・

「依頼が全く来ない!どうしてだ、ひまわり!」
ということだ。

机を「ドン!」と叩いて太陽が叫んだため、
ひまわりは思わずビクッとした。

「ど・・どうしてと言われましても・・」
答えようと思っても、いい答え方が見つからない。

魔法相談所を開設してから数週間、
いまだにこれといった相談も無く、
太陽の機嫌は日に日に悪化している。

しかし依頼が来ないのは、
仕方が無いといえば仕方無いことだろう。

魔術ど素人の相談員に相談を持ちかけるお客なんて
ほとんどいるはずがない。

相談するなら
ちゃんと実績がある人に頼むのが普通である。

2人がもう少し経験を積めば、
状況も変わってくるかもしれないのだが、
今の時点ではどうすることもできないのだ。

グイッと茶を一気に飲み干すと
太陽はひまわりにこう言った。

「ということで、ひまわり、
学校で相談者を探してみるぞ」

その瞬間、「え?」とひまわりは固まった。

「え・・その・・・、
学校でって生徒達に
『お悩み、魔法で解決します』と宣伝するのですか?」
「ま、『魔法で』というのは
伏せておいた方がいいかもな。
魔法が使えることはヒミツにしておきたいし」
「き・・桐島くんの名前で募集するんですか?」
「ああ、そうだけど」

太陽がそう答えると、ひまわりはあわてて、
「本名はやめた方がいいですよ!!
イメージダウンになるかもしれませんし!!
桐島君は一応学校では
女の子のあこがれの王子様なんですから、
みんなの夢を壊さないでください!」
と全力で反対した。

ひまわりは太陽の裏の顔を知っているので
以前のように「学園の王子様」だとは毛頭も思いはしないが、
太陽を慕う女の子達はそんなこと知らないので、
今でもあこがれ続けている。

それが「魔法でお悩み相談」などと
ちょっとオカルト的要素の入った謎の活動を
太陽が行なっていると知れば、
それだけでイメージダウンである。

「イメージダウンって・・・」

太陽はそんなこと全くどうでもいいみたいだが、
ひまわりが、
「それなら匿名でやった方が良いと思います」
と提案してきた。

「匿名?」
「ハイ!そっちの方がなんか神秘的ですし、
正体が分からないからロマンがあるみたいな・・」
「神秘的・・ロマン・・
いまいちおまえの説明は分かりにくいな」
とは言ったものの、
太陽も「匿名活動」案に関心を持った。

「よし!
じゃあ『こっそり張り紙&メール』作戦で
お悩みを募集してみるぞ!!」

機嫌を直して、
宣伝活動に俄然やる気を出し始めた太陽に
ひまわりもエールを送る。

「お客さん、来てくれるといいですね!」

心底そう思った。
これ以上、太陽の機嫌が悪化することは
避けたいからだ・・・。

『ということで、桐島くんは
学校のあまり目立たない場所にポスターを貼ったり、
無理やり送られてきた女の子のメールアドレスに
宣伝メールを送ってみたりしました。

張り紙やメールの内容が、
いかにも怪しげな内容だったせいか、
けっこう学校では話題になり、
相談メールが何件か寄せられたのです。

しかし・・・
そのほとんどがいたずらメールや投書ばかりで
桐島くんの怒りをかってしまいましたが、
気になる相談が1件届きました』

「魔法の薬草を一緒に探して欲しい、
っていう依頼ですか?」
休み時間、学校裏に呼び出されたひまわりは、
まともな相談依頼が届いたことに驚いた。

太陽はうれしそうに
メールを印刷した用紙をヒラヒラさせ、
「ああ、やっとそれらしい依頼が着て
ありがたいことだ。
ま、これもおれの宣伝努力のおかげだがな」
と満足げに話した。

ひまわりはメールの内容を読みながら、
「それで・・、
これは誰からの依頼なんですか?」
と聞くと、太陽は送り先を指差す。

「1年4組の『深谷蛍』っていうヤツみたいだけど、
知ってるか?」

太陽は1組、ひまわりは5組なので、
深谷蛍という人物がどんな人なのか分からなかった。

そこで、
さっそく1年4組に足を運んでみた。

休み時間なので、皆それぞれが席を離れ
ゴチャゴチャした状況ゆえに、
誰が誰だか全く分からない。

その時、女の子が1人教室から出てきた。
太陽はすかさず女の子の腕をつかみ、
「ちょっといい?」
と営業スマイル全開で呼び止めた。

女の子は太陽に声をかけられ、
「きゃーっ!太陽!!何?何!?」
とものすごくうれしそうである。

太陽は教室内を指差しながら、
「確か4組に『深谷蛍』っていう子がいると思うんだけど、
どの子?」
と聞くと、女の子は先ほどまでの
うれしそうな表情を一転させ、
眉をしかめながら、
「う〜ん・・いるにはいるけど・・」
と窓際の一番後ろの席を指差す。

ひまわりと太陽がその方向を見た瞬間、
2人は「うっ」と思わず声を出してしまった。



声をかけられ、蛍はゆっくり振り返った。
「ちょっといいかな?」
太陽はまた全開の営業スマイルで話しかけてみた。
だいたいの女の子は、
この笑顔にだまされてクラッとくるのだが・・・。

蛍は太陽の顔を見ると、
「桐島・・太陽・・・」
とポツリをつぶやいた。

どうやら太陽の名前は知っているようだ。

だが、次の瞬間、
「何の用だ?
悪いけど、おまえは私の趣味じゃない」
と言ってそっぽを向いたので、
太陽のエベレストのように高いプライドが
見事にポキッと折れる。

声には出さなかったものの、
「おれだって、おまえみたいな女、
趣味じゃねーよ!!」
と心の中で叫んでいるのが
ひまわりには痛いほど伝わってきた。

太陽はひとまず怒りを落ちつかせ、
「オホン、
趣味じゃなくて結構。
おれがここに来たのは、
魔法の薬草を探すのを手伝いに来たんだけど」
と言うと、蛍は驚いた顔をして振り返った。

「じゃ・・じゃあ・・あのメールは・・、
おまえが送信者だったのか・・・・」
と、ここまではよかったのだが、
その後で、
「頼りにならなさそう」
と付け加えられたため、
またもや太陽のプライドが
二重三重にもポキポキッと折られた。

「だから、おまえなんかにそんなこと
言われたくねーよ!!」
と今にも怒りが爆発しそうな太陽を
「お、落ちついてくださ〜い!!」
とひまわりが必死におさえこんだ。

その様子を冷静に見ていた蛍だったが、
ひまわりの存在にハッとする。
というのも、
今まで感じたことがないほどの
大きな力を感じたからだ。

教室だと目立つので、
人目を避けた中庭に三人はやってきた。

蛍が「ヨイショ」とベンチに座るや否や、
太陽が、
「まさか、あのメール、
いたずらで送ってきたんじゃないだろうな?」
とちょっと怒った様子で聞いた。

さきほど、
蛍に散々けなされたのがまだ後を引いているようだ。

しかし、
蛍も全く動じていない様子で、
「半分『いたずら』で半分『本気』ってとこかな」
と答えた。

「半分?」
「ああ、だってあんなビラ、
普通はいたずらって思う人が多いはず。
『超常現象OK』とか書いている辺りが
なんとも胡散臭いし」

蛍にそう言われると、
ひまわりも太陽も「確かに・・」と言わざるをえなかった。

「でも・・」

蛍は続ける。

「いたずらじゃなくて、
本当に願いを叶えてくれるんだったら、
ずっと作りたかった『魔法の秘薬』を完成させたいんだ」

そう言った蛍の横顔は、
秘薬で何か願いを切に叶えたいという表情が
はっきり出ていた。

しかし太陽にとっては、
蛍が秘薬で「何をしたいのか」には関心がなく、
「魔法の秘薬」自体がどんなものなのかに
興味があるようだ。

「で、その魔法の秘薬って何なんだ?」

太陽が聞くと、
「うちの親が超常現象を研究している学者みたいなもので、
家には魔術の本や古文書などがたくさんあって、
その中に魔法の秘薬の作り方を書いた本があるんだ」
と蛍が答えたため、
「マジで!?」
と喰いついた。

魔力が無いせいか、
昔から魔術関係の知識だけは必死に勉強・研究してきた太陽ゆえに
蛍の家の書物はとても魅力的である。
雨夜家にもたくさん古い書物はあるが、
それでも限られるので、
もっとたくさんの書物を読みたかった太陽にとっては朗報だ。

「深谷!
その書物を見に行かせてもらってもいいか!?」

ちょっと興奮気味で太陽がお願いをすると、
「それは別に構わないが・・、
その前にお前達が何者か教えてくれないか?」
と蛍が聞いてきた。

蛍の家は、ごく普通の住宅街にあった。

家も普通の一般的な建物であるが、
庭にいかにも古くてどっしりとした大きな蔵があることが
ちょっと変わっていることかもしれない。
恐らく、この蔵に
古文書などが保管されているのであろう。

ひまわりと太陽は居間に通された。

居間も別段、普通の家と変わらず、
父親が「超常現象」を研究している様子には見えない。
恐らく「生活」と「研究」は別物として切り離しているのかもしれない。

「なるほどね。
桐島は、あの「雨夜家」の血を引く者だったのか」

太陽から、詳しい説明を受けた蛍は納得したようだった。

「おまえ、
雨夜家のことを知っているのか?」

太陽が聞くと蛍はうなづく。

「まーね。
古い魔術書や占術書を見ていたら名前はよく出てくるからね」
と言うと、蛍はジーっと太陽の顔を見つめた。

「でも・・桐島。
おまえ魔力は無いだろう?」

初対面の蛍に、
突然自分の「ひみつ」を言い当てられた太陽は
ギクッとした。
今まで、誰にもそんなこと言われたことがないのに・・。

挙動不審になっている太陽を見た蛍は、
自分の考えに間違いは無いと確信を持てたせいか、
ふんぞり返って勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

それが悔しかったのか太陽は、
「ああ、『今は』な」
とホラを吹いてみた。
しかし、蛍が関心を寄せているのは太陽ではなく
ひまわりの方だ。




「ま、桐島はどっちでもいいとして」
蛍はひまわりをジッと見る。

「あなた、何か大きな力を持っているみたい」

突然、思いもよらないことを言われたひまわりはあわてて、
「い、いえ!
そんなめっそうもない!!」
と首と手をブンブンと振って必死に否定した。

その様子を見ていた蛍は心の中で、
『桐島と違って、ものすごく謙虚な子・・』
と思ってしまった。

すると横から太陽が、
「というか深谷。
ひまわりに魔力があることが分かるのか?
おまえも魔力を持っているのか?
素人にはこんなこと分からないはずだぞ」
と聞いてきたが、蛍は首を横に振った。

「いや、魔法を使うほどの力は無い」

「じゃあなんで分かるんだ?」

「深い理由は分からない。
でも、一般の人よりは感覚が発達しているのかもね。
魔力や霊力を持っている人や、
人間じゃないモノなどは、なんとなく分かる」

「霊感・・のようなものなのか?」

「ま、そんなものだろうとは思うけど、
でもはっきり幽霊が見れるわけじゃない」

まとめてみると、
魔法を使うほどの魔力は無いが、
不思議な力を感じる
センサーのようなものは発達している、
というのが蛍の性質のようである。

お互いの自己紹介的なものが一応終わり、
やっと本題に入る。

「で、探して欲しい薬草なのだが・・これだ」

蛍が分厚い辞書のような本をめくり、
あるページを開く。

そこには大根が二股に分かれたような植物の絵が載っていた。

それを見た瞬間、太陽が、
「ゲッ!?これって『マンドレイク』じゃないか!!」
と叫んだ。

「深谷、まさかこれを引っこ抜きたいと思ってるのか!?
危険だぞ!?」
「ああ、そうだから依頼したんだよ」

太陽と蛍の会話は、
ひまわりにはチンプンカンプンすぎるのだが、
ただ「危険」だということは何となく分かる。
いつも余裕をこいている太陽があわてているから、
よっぽどのことなのだろう。

ものすごく不安になって、2人に思い切って聞いてみた。

「あの・・『マンドレイク』って何ですか?
なんで危険なんですか?」

ひまわりの質問に、太陽が答える。

「マンドレイクとは魔法の植物で、
根っこが人間の姿に似たものだ。
非常に強い魔法の力を持っているから、
『魔法薬』を作る時には重要な材料になってくるんだ」



その説明に蛍が付け加える。

「ただし、引っこ抜く時に
マンドレイクは叫び声をあげるんだけど、
その声を聞いた者を殺す力を持っているそうよ」

「ええっ!?殺す!?」

ひまわりはびっくりして大声を出した。
頭の中はパニックだ。

「えっ!?えっ!?
じゃあ、どうやって抜くんですか!?
そんな恐ろしいもの!!」

「昔の人は、
腹を空かせた犬にエサで釣って引き抜かせていたらしいぞ」

またもや衝撃的な説明に、ひまわりはびっくりする。
普段、大人しくて
自分の意見などをめったに言わないひまわりだが、
ここでは思わず、
「そんなの犬がかわいそうです!!」
と叫んだので、太陽も驚いてしまった。

パニックに陥っているひまわりを落ちつかせようと、
太陽はいつもより優しい声で、
「大丈夫だ、犬は使わない。
魔法の力を使えばいいんだよ。
この前、探し物をした時のように
紙人形を使ってもいいし。
元々あれは紙だから、死ぬこともないからな」
と説明したので、
ひまわりもホッとした表情を見せた。

「それより―」
太陽は蛍の方に目を移す。
「マンドレイクはほとんど空想の産物だ。
実際存在するとは言えない。
それをどうやって探すつもりだ?」

魔法の書物には、必ずといっていいほど出てくるこの植物。
しかし、本当に実在したかは分からない。
もしかしたら、大根や人参などが二股に分かれているものを
「マンドレイク」と信じて秘薬に使っていただけかもしれない。

しかし蛍は、
「ああ、それなら生えている場所は
だいたい分かっている」
とあっさり答えたので、太陽は「えっ!?」と驚いた。

「父がヨーロッパを研究旅行中に
マンドレイクの株を、
魔女の子孫という人から譲り受けて、
持って帰ってきたのだが、危険なものだ。
人目につかない裏山にとりあえず埋めて、
魔術師の人に結界をそこに張ってもらったらしい。
しかし・・・」

「しかし?」

ひまわりと太陽はゴクリと息を呑む。

「埋めた場所を忘れたらしい」

思わず2人はイスからずり落ちてしまった。
蛍はフーっとため息をつきながら、
「全くバカすぎる話だろ?
結界も張ったままだし、
魔力が無い私にはどうしようもできなくて」
と言った。

ひまわりは、
また聞きなれない言葉が出てきたので質問してみた。

「あの・・結界って何ですか?」

太陽は近くにあったメモ用紙に、
円を描きつつ説明する。

「例えば、魔方陣を地面に描くと
その中は魔法の力で外界から遮断された状態になる。
その内側と外側の境にできるのが
『結界』といえば、分かりやすいかな」

それを聞いたひまわりは、また1つ疑問が生まれた。

「結界の意味は分かりましたが、
結界にはものすごい魔力がこめられているんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、それを破るなんて
ものすごく大変なことなんじゃないですか?」
「ああ、
ま、それはひまわりががんばれば、どうにかなるだろう」
「!?」

太陽にあっさりとそう言われ、
ひまわりは思わず言葉を失った。

なんだろうか・・、
助手の役割がどんどん大きくなっているような
そんな気がした。

ちょっと凹み気味のひまわりに、
「そういえばひまわりちゃんって、魔法の杖はお持ち?」
と蛍が聞いてきた。

まるで、「鉛筆はお持ち?」的なぐらい
軽い感じで「魔法の杖」を持っているか聞かれたせいか、
『え?
魔法の杖って、そんな誰もが持っているようなものなの?』
ひまわりは頭の中がまた混乱してきた。

「い・・いえ・・。持ってないです・・」

そう答えると、蛍はメガネを光らせながら
「じゃあ、持った方がいいわよ。
杖は魔力を増強させるから」
と言った。

「え・・でも、持ったらいいと言っても、
どこで売っているのかさっぱり・・」

ひまわりは行きつけのお店を何軒か思い出してみたが、
どこにも「魔法の杖」なんて売ってなかったと思う。
おもちゃ屋には、
魔女っ子アニメの「魔法の杖」的なものは売っているが、
あれは完全におもちゃである・・・。

すると蛍は、
「待ってて。いいものを持ってくるから」
と言ってスッと立ち上がり、部屋を出て行った。

ひまわりは太陽と顔を見合わせ、
「いいものって何でしょうか?」
と首をかしげた。

数分後、
「お待たせ」
と言って蛍が帰ってきた。
手には、星が付いた杖のようなものを持っている。

ひまわりが不思議そうにその杖を見ていると、
蛍はスッと差し出し、
「これ、ひまわりちゃんにあげる」
と言った。

「え?え?」

言われるがままに杖を渡される。

「えーと・・これは・・?」

「これも私の父が海外に研究旅行に行った時に、
魔女の子孫という人からもらった魔法の杖らしいわ」

その話を隣で聞いていた太陽が突然イスから立ち上がり、
「え!魔女の子孫!?マジで!?
すげーじゃん!ひまわり、これはすごいぞ!!
おまえも今日から『魔女っ子』だ!」
と興奮して自分のことのように喜んでいる。

が、ひまわりは急に「魔法の杖」というものを渡され
困惑の色を隠せ切れない。
杖を軽く横に振りながら、
「ど・・どうやって使えばいいんですか?」
と聞くと、太陽が、
「どうやってって、
魔力を込めて杖から力をぶっ放すんだよ」
と説明したが、曖昧すぎて全く意味が分からない。

すると横から蛍が、
「杖そのものにも魔力があるのよ」
と入ってきた。

「ただ、杖と持つ人の魔力のバランスが大事で
杖の力が大きすぎても使いこなせないし、
弱すぎても自分の力を発揮できないから注意して。
そうね、ひまわりちゃんに合っているかチェックしてあげるから
ためにしに使ってみてくれる?」

またもや突然のムチャ振りに、
「え!?」と驚くひまわり。

『な・・なんでこんな展開に・・。
魔法さえも自分が本当に使っているのか
未だに信じられないのに、
急に魔法の杖を使えなんて・・。
こんなこと教科書に載ってなかったから
やり方なんて分からないですよ〜』

と心の中で叫んでいると、パチッと太陽と目が合った。
太陽の目は、
「やれ!」とひまわりに訴えかけている。
ひまわりに拒否権はなさそうだ・・・。

困っているひまわりを助けようと思ったのか、
蛍が机の上に犬のぬいぐるみをポンと置いた。

「じゃ、魔法の基本中の基本で
モノを変身させてみましょう。
この犬のぬいぐるみをウサギのぬいぐるみに変えてみて」

そう言われて、
ひまわりはジッと犬のぬいぐるみを見つめた。

「犬をウサギにですか?」

「うん、ウサギに」

皆に見つめられ緊張して、足はガクガク震えている。
とりあえず頭の中にウサギをイメージしてみた。

「うまくいうくか分からないけど・・・エイッ!」

杖を思い切り上から下にブンと振り下げた。

その瞬間、皆が息を呑んだ。

「・・・・・・・」

が、全く何の変化も見られない・・・。

すると太陽が、
「なんだひまわり!
そのやる気の無い動作は!!
もっとあるだろ!こう気合いを入れてだなあ!!」
と喝を入れてきたので、ひまわりはあわてて、
「いえ!
これでも真剣にやってるんですよ!!」
と真面目にやっていることをアピールした。

ワーワー言い合っている2人を横目で見ながら、
蛍が杖を見つめる。

「私の勘では、絶対この杖の持ち主は、
ひまわりちゃんが良いと思うんだけど・・」

そんなドタバタ事件があった後、
ひまわりは家に帰ってきた。
が、手には例の魔法の杖を握っている。

すでに時間は夜だったので、
なんとか人目に触れずに帰ってくることはできたが、
杖と一緒に家に入るわけにはいかない。

「魔法の杖・・もらってしまいましたけど、
このままの状態で家に入ったら、
絶対家族に怪しまれますよね・・」

杖の長さは約1メートルぐらいで、
かばんに押し入れようとしても入るサイズではない。

帰り際に蛍が、
「一応杖は小さくなるみたいだけど、
方法は私には分からないわ」
と言っていた。

蛍でさえ分からないのに、ひまわりに分かるはずもないため、
杖のサイズを変更できず困っているのだ。

「とりあえず、物置に隠して
後で取りに来ましょう・・・」

そう言ってひまわりは物置に杖を隠すと、
何事もなかったかのように家に入った。

「ただいま・・・」

家に入るや否や、
「ひまわり、帰って来たのか?」
と兄が現れた。

「あ、お兄ちゃん。
今日はお早いお帰りのようで・・」

「ああ、今日は『占いの館』も家族全員出勤だったからな」

ひまわりの家族構成は、
祖母・父・母・姉・兄・ひまわりの6人だが、
ひまわり以外の皆は、
家に隣接する『占いの館』で仕事をしている。

兄である「夏野海斗」はまだ大学生だが、
小さい頃から霊感があり、
透視能力も優れているため、
水晶占いを主にやっている。

サラサラの髪に、甘いスマイルで
女性に非常にもてるので、
「イケメン占い師」として
最近は雑誌やテレビなどでも活躍しているのだ。

兄はひまわりの顔を急にじっと見つめる。

「え?何かついてる?」
と、ひまわりが聞くと兄は
「おまえ、何かひきつれて帰ってきてるぞ」
と言ってきたので、
ひまわりは「ええっ!?」と飛び上がった。

「ひ・・ひきつれて帰ってきてるって・・
何?幽霊系?」

幽霊とか苦手なので、
ビクビクしながら聞いてみたが、
「いや、なんだろう・・、
こう不思議な・・・妖精のような魔法使いのような?」
と思いっきり心当たりのあることを
ズバッと言ってきたので、
ひまわりはダーッとその場から逃げ出した。

兄は後ろから、
「おい!?ひまわり!待てよ!
何連れて帰ってきたんだーっ!」
と大きな声で叫んだ。

ひまわりが何を連れて帰って来たのか
非常に気になったからだ。

『「魔法使いのようなもの」って、あの魔法の杖のせい?
杖の魔力が私に乗り移ってきたの!?
わ〜、いろいろどうしよう〜!!』


ちょっと凹み気味のひまわりに、
「そういえばひまわりちゃんって、魔法の杖はお持ち?」
と蛍が聞いてきた。

まるで、「鉛筆はお持ち?」的なぐらい
軽い感じで「魔法の杖」を持っているか聞かれたせいか、
『え?
魔法の杖って、そんな誰もが持っているようなものなの?』
ひまわりは頭の中がまた混乱してきた。

「い・・いえ・・。持ってないです・・」
そう答えると、蛍はメガネを光らせながら
「じゃあ、持った方がいいわよ。
杖は魔力を増強させるから」
と言った。
「え・・でも、持ったらいいと言っても、
どこで売っているのかさっぱり・・」

ひまわりは行きつけのお店を何軒か思い出してみたが、
どこにも「魔法の杖」なんて売ってなかったと思う。
おもちゃ屋には、
魔女っ子アニメの「魔法の杖」的なものは売っているが、
あれは完全におもちゃである・・・。

すると蛍は、
「待ってて。いいものを持ってくるから」
と言ってスッと立ち上がり、部屋を出て行った。

ひまわりは太陽と顔を見合わせ、
「いいものって何でしょうか?」
と首をかしげた。

数分後、
「お待たせ」
と言って蛍が帰ってきた。
手には、星が付いた杖のようなものを持っている。
ひまわりが不思議そうにその杖を見ていると、
蛍はスッと差し出し、
「これ、ひまわりちゃんにあげる」
と言った。

「え?え?」
言われるがままに杖を渡される。
「えーと・・これは・・?」
「これも私の父が海外に研究旅行に行った時に、
魔女の子孫という人からもらった魔法の杖らしいわ」
その話を隣で聞いていた太陽が突然イスから立ち上がり、
「え!魔女の子孫!?マジで!?
すげーじゃん!ひまわり、これはすごいぞ!!
おまえも今日から『魔女っ子』だ!」
と興奮して自分のことのように喜んでいる。

が、ひまわりは急に「魔法の杖」というものを渡され
困惑の色を隠せ切れない。
杖を軽く横に振りながら、
「ど・・どうやって使えばいいんですか?」
と聞くと、太陽が、
「どうやってって、
魔力を込めて杖から力をぶっ放すんだよ」
と説明したが、曖昧すぎて全く意味が分からない。

すると横から蛍が、
「杖そのものにも魔力があるのよ」
と入ってきた。

「ただ、杖と持つ人の魔力のバランスが大事で
杖の力が大きすぎても使いこなせないし、
弱すぎても自分の力を発揮できないから注意して。
そうね、ひまわりちゃんに合っているかチェックしてあげるから
ためにしに使ってみてくれる?」
またもや突然のムチャ振りに、
「え!?」と驚くひまわり。

『な・・なんでこんな展開に・・。
魔法さえも自分が本当に使っているのか
未だに信じられないのに、
急に魔法の杖を使えなんて・・。
こんなこと教科書に載ってなかったから
やり方なんて分からないよ〜』

と心の中で叫んでいると、パチッと太陽と目が合った。
太陽の目は、
「やれ!」とひまわりに訴えかけている。
ひまわりに拒否権はなさそうだ・・・。

困っているひまわりを助けようと思ったのか、
蛍が机の上に犬のぬいぐるみをポンと置いた。
「じゃ、魔法の基本中の基本で
モノを変身させてみましょう。
この犬のぬいぐるみをウサギのぬいぐるみに変えてみて」
そう言われて、
ひまわりはジッと犬のぬいぐるみを見つめた。
「犬をウサギにですか?」
「うん、ウサギに」
皆に見つめられ緊張して、足はガクガク震えている。
とりあえず頭の中にウサギをイメージしてみた。
「うまくいうくか分からないけど・・・エイッ!」
杖を思い切り上から下にブンと振り下げた。

その瞬間、皆が息を呑んだ。

「・・・・・・・」

が、全く何の変化も見られない・・・。

すると太陽が、
「なんだひまわり!
そのやる気の無い動作は!!
もっとあるだろ!こう気合いを入れてだなあ!!」
と喝を入れてきたので、ひまわりはあわてて、
「いえ!
これでも真剣にやってるんですよ!!」
と真面目にやっていることをアピールした。

ワーワー言い合っている2人を横目で見ながら、
蛍が杖を見つめる。
「私の勘では、絶対この杖の持ち主は、
ひまわりちゃんが良いと思うんだけど・・」

そんなドタバタ事件があった後、
ひまわりは家に帰ってきた。
が、手には例の魔法の杖を握っている。

もう夜だったので、
なんとか人目に触れずに帰ってくることはできたが、
杖と一緒に家に入るわけにはいかない。
「魔法の杖・・もらったのはいいけど、
このままの状態で家に入ったら、
絶対家族に怪しまれるよね・・」

杖の長さは約1メートルぐらいで、
かばんに押し入れようとしても入るサイズではない。
帰り際に蛍が、
「一応杖は小さくなるみたいだけど、
方法は私には分からないわ」
と言っていた。

蛍でさえ分からないのに、ひまわりに分かるはずもないため、
サイズ変更できず困っているのだ。
「とりあえず、物置に隠して後で取りに来よう・・」
そう言ってひまわりは物置に杖を隠すと、
何事もなかったかのように家に入った。

「ただいま・・・」
家に入るや否や、
「ひまわり」と兄が現れた。
「あ、お兄ちゃん。
今日はお早いお帰りのようで」
「ああ、今日は『占いの館』も家族全員出勤だったからな」

ひまわりの家族構成は、
祖母・父・母・姉・兄・ひまわりの6人だが、
ひまわり以外の皆は、
家に隣接する『占いの館』で仕事をしている。

兄である「夏野海斗」はまだ大学生だが、
小さい頃から霊感があり、
透視能力も優れているため、
水晶占いを主にやっている。
サラサラの髪に、甘いスマイルで
ひまわりと違ってもてるので、
「イケメン占い師」として
最近は雑誌やテレビなどでも活躍しているのだ。

兄はひまわりの顔をじっと見つめると、
「おまえ、何かひきつれて帰ってきてるぞ」
と言ってきたので、
ひまわりは「え!?」と飛び上がった。

「ひ・・ひきつれて帰ってきてるって・・何?幽霊系?」
幽霊とか苦手なので、
ビクビクしながら聞いてみたが、
「いや、なんだろう・・、
こう不思議な・・・妖精のような魔法使いのような?」
と思いっきり心当たりのあることを
ズバッと言ってきたので、
ひまわりはダーッとその場から逃げ出した。
もっと詳しく調べたかった兄は、
「ひまわり!待てよ!
何連れて帰ってきたんだーっ!」
と後から叫んだ。

『「魔法使いのようなもの」って、あの魔法の杖のせい?
杖の魔力が私に乗り移ってきたの!?
わ〜、いろいろどうしよう〜!!』

家族の皆が寝静まった頃、ひまわりはこっそり庭に出て
物置へ向った。
ガラガラと戸を開けると、隠していた杖をソッと取り出す。

「とりあえず・・サイズを小さくしたいのですが、
どうしたらいいんでしょうね・・・」

魔女っ子アニメを思い出してみた。
確かアニメでは、「ぬいぐるみ」みたいな妖精が、
主人公に呪文を教えて、
杖を出したり閉まったりしていたような・・・。

「呪文・・・」

そうだ、きっと呪文が何かあるはずだ。

が、ひまわりの横にはぬいぐるみのような妖精はいない。
ということは、誰かが呪文を教えてくれるわけではないのだ。

呪文をあきらめたひまわりは、
杖を地面に置き、
「お願いします!小さくなってください!」
と念じてみたが、これも効果がなかった。

「はあ・・どうしよう・・」

大きくため息をついた瞬間、携帯が鳴り出した。
表示には「桐島」と出ている。

「ハイ」と携帯に出るや否や、
「ひまわり、明日も魔法会議やるから杖持って来いよ」
と一方的に言ってきた。

「え!?杖をですか!?」

「あたりまえだろ。
杖があった方が魔法も使いやすいし」

「で・・でも・・これ、小さくならないんですよ・・。
持ち歩いたら目立つと・・」

「そんなの関係ねーよ。
とにかく杖を持ってくるように!」

言いたいことを言うと、太陽はプツッと電話を切った。

ひまわりは切れた電話をしばし無言で見つめ、
その後「はあ・・」と大きくため息をついた。

どうやら今夜は
魔法の杖を入れる袋を縫うので、忙しくなりそうだ・・・。


(第4話へつづく)