「魔力」はあるけど「自信」のないひまわりと、
「自信」はあるけど「魔力」のない太陽との
魔法勉強ストーリー。




第4話:魔法の杖と呪文
(最新話はこちらから(5月17日更新)


『ご主人様
再びあなたに見つけ出してもらえるまで
永い間待ち続けておりました。

思い出してください。
魔術を使っていた時のことを。

私を目覚めさせ、使用するための方法は
あなたの家の書庫にある古い本に書かれています。

よろしくお願いいたします・・・』

「ん・・・」

カーテンの隙間から入ってくる光で
ひまわりは目を覚ました。
目の前には、裁縫道具や切った布などが散乱している。
起きたばかりゆえ事態を把握できず、
しばらくボ〜ッとしていたが、
魔法の杖が目に入ってきた瞬間ハッとした。

「あ、そっか!
魔法の杖を小さく出来なかったから、
持ち運びが出来る袋を深夜遅くに縫っていたら、
そのまま寝ちゃったんだっけ・・・」

そう、昨日突然魔法の杖を渡されたものの
サイズを変更する方法が分からない上に、
太陽に「明日学校に持って来い」と言われたため
裁縫道具を取り出して、杖を入れる袋を作るハメになったのだ。
そのままの杖の状態で持ち歩いていると、
間違いなく不審者に思われそうだからだ。

ひまわりは、ぐ〜っと体を伸ばす。

「さっき・・起きる直前に不思議な夢を見たけど・・、
あれ、何だったんでしょう?」

「おはよ〜」

いつも通りの登校風景・・、
のはずだったが、
ひまわりだけは朝から生徒達の注目の的だ。
というのも、
1メートルぐらいある魔法の杖を入れた
長い袋を持って登校しているので、
皆が興味津々の目で見てくる。

「あの子、すごく長いモノ持ってない?」
「なんだろ、あれ?」
「吹奏楽部の楽器とかでもないよね?」

ヒソヒソと周りから聞こえてくる声に、
恥ずかしくて真っ赤になりながら
小走りで教室に急ぐひまわり。

『どうしましょう・・・
なんか怪しいもの持っているみたいで注目されてます〜!!
そもそも、桐島くんが
杖を「学校に持って来い」って言うから、
私がこんなハメになったんです・・・』

「ハア」とため息をついたひまわりだったが、
すぐにキッと顔をあげる。

『落ち込んでいる場合じゃありません!
こうなったら、なんとしてでも
杖を小さくする方法を見つけ出さなくては!』

昼休みになると同時に、
ひまわりは太陽を探しに校内を走り回った。
しかし、
教室にも体育館にも運動場にも姿が見えない。

「どこに行ったんでしょう・・・。
いつもならイヤほど目に入ってくるのに・・・」

中庭をキョロキョロしながら歩いている時だ。
水飲み場の向こう側に太陽が見えた。

「桐島―」
と、声をかけようとした瞬間、
「好きなの!」
という女の子の声が聞こえてきたため、
ひまわりは思わず口をつぐんだ。

あわてて茂みに姿を隠すひまわり。
突然の出来事に心臓がバクバクしているが、
状況を確かめるべく、ソッと茂みから顔を出した。

「私、太陽とつき合いたいの。
入学式で一目見たときから好きだったの!」

告白している女の子は、
確か隣のクラスの美少女で
男子の間で騒がれている子だ。

『あんなかわいい子だったら、
桐島くんもOKするんじゃないのかな・・』

別に自分が告白しているわけじゃないのに、
ひまわりの心臓はドキドキしている。
なぜだか分からないが、
少し胸が痛むようなドキドキも感じられる。

「あ・・」
太陽が口を開いた。

「ごめん・・、
今は恋愛よりやりたいことがあるから・・」

その言葉を聞いたひまわりは耳を疑った。

『え!?ふりました!?
恋愛よりやりたいことがあるって、
魔法相談所のことですか!?
桐島君、おかしいですよ、
あんなにかわいい子をふってまで、
魔法のことを選ぶなんて・・・』

太陽の魔法相談所にかける熱意を
ひまわりは改めて感じると同時に、
助手のプレッシャーもズンとのしかかってきた。

ふられた女の子は、
「そっか・・、じゃあ」
と言ってその場を走り去って行く。
目にはうっすら涙が浮かんでいた。

走り去っていく後姿を見ていると、
自分が告白したわけでもないのに、
ひまわりもつらい気持ちになってくる。

『なんだかかわいそうです・・だけど、
桐島くんはもてるから、
こんなこと慣れているんでしょうね・・・・』
と、そんなことを考えていた時だった。

「おい」
背後から突然声をかけられ、ひまわりは飛び上がった。

「盗み見か?」

うっすらと怒りを浮かべている太陽の顔を見て、
ひまわりはブンブンと顔を横に振る。

「べ、別に盗み見しようなんて思ってなくて、
桐島くんを探していたらたまたま、でしてね!
アハハハハ・・・」

必死に言い訳をするひまわりを
またジロッとにらむ太陽。

その気まずい雰囲気に耐えられないのか、
ついひまわりは余計なことまでベラベラとしゃべり出した。

「で、でも、
あんなかわいい子ふっちゃうんですか?」

と、自分で言い出しておきながら、
事態をさらに悪化させているような気がして、
聞いたことを後悔した・・・。

太陽は「フーッ」とため息1つつくと、
「付き合うとか、
中学時代に嫌ほどやったから
しばらくは興味が無いし」
とプレイボーイ発言をしたため、
ひまわりはギョッとした。

『な・・何ですか・・、その発言は・・。
私なんか告白したこともされたことも、
付き合ったこととかも1回もないのに・・』

自分の恋愛経験の無さをさみしく感じているひまわりに、
太陽はさらに付け加えた。

「それに第一、
どうせ好きな人には一生ふり向いてもらえないからな」

再びの意味深発言に、
またもやひまわりはドキッとさせられる。

『好きな人には一生ふり向いてもらえない・・?
え・・桐島くんの好きな人って誰なんですか??
しかも桐島くんでさえも、ふり向いてもらえない相手って・・』

太陽の言葉に振り回され、
自分が何をしに来たのかすっかり忘れていたひまわりだったが、
「杖はどうなったんだ?」
という太陽の一言で、ハッと我に返った。

「つ、杖は何も変わらずです!」

期待していた答えと真逆の答えが返ってきたため、
太陽の機嫌は一気に悪化する。

「努力はしたのか?」

「ど、努力はしました!」

ひまわりがそう答えると、太陽は「フー」と1つため息をついた。

「おれが考えるところ、
たぶん何か呪文があると思うんだけど・・」

呪文・・・

その言葉を聞いた瞬間ひまわりは「ハッ」とした。
今朝の夢だ。

『私を目覚めさせ使用するための方法は、
あなたの家の書庫になる古い本に書かれています』

そう杖がしゃべっていた。

が・・、果たして本当なのだろうか・・。

もしかして寝ぼけていただけなのかもしれない。
そんなバカげたことを話したら、
きっと太陽に「くだらない」と一喝されるのがオチだ。
黙っておくに越したことはない。

「杖のことはいったん置いといて、
マンドレイクのことを優先させよう。
深谷が何かつかんだかもしれないから聞きに行くぞ」

「ハ、ハイ!」

2人は校舎に向って歩き始めた。

蛍のクラスの前までやって来たひまわりと太陽。

教室の中をコソッとのぞくと、
どうやら遠足の班を決めている最中のようだ。

「えーと・・深谷さんは・・」

キョロキョロと教室内を見回すと、
蛍は班決めをしている集団から離れたところで
1人ポツンと本を読んでいる。

「深谷さんー」

ひまわりが声をかけようとした時、
「ちょっと!誰が深谷を同じ班に入れるのよ!」
「うちは絶対イヤよ!」
という声が聞こえてきた。

班決めをしている女の子達が何やらもめている。

「せっかくの楽しい遠足なのに、
なんであんな陰気な子をうちの班に入れないとダメなの!?」
「それはうちの班だって同じよ!」
「誰か深谷を引き取ってよ〜!!」

どうやら蛍はクラスの女子達から避けられている存在のようで、
その会話を聞いたひまわりは真っ青になった。

『え・・そんな・・ひどい・・』

どうしていいか分からず、ぼ〜っと突っ立ていると、
「あら?ひまわりちゃん達、来てたの?」
と蛍が突然目の前に現れたので、
びっくりして飛び上がった。

「あ・・、え・・」

蛍がさっきのクラスメイトの会話を
聞いていたのではないか、と思うと、
ひまわりはどう接したらいいのか分からず
あたふたしてしまった。

すると横から、
「深谷、おまえ、クラスメイトから嫌われているんだな」
と太陽がしれっとデリカシーのないことを言ったので
ひまわりは心の中で「ひ〜!?」と叫んだ。

これで蛍が傷ついたらどうするつもりなのだろうか!?

『き、桐島くん、何をー・・・』
と心配するひまわりだったが、
蛍は、
「そうだけど、それが何?」
と別に全く気にしてないような口調で答えた。

「どうせあんなの上辺だけの付き合いだろうし、
面倒くさいから一人の方が楽だわ」

「ほ〜、さばさばしてんだな、おまえ」

太陽は感心したような目で蛍を見た。

全く動じてない太陽と蛍を
横で見ていたひまわりだけが
1人困惑しているようだ。

本当にさみしくないのだろうか・・。
自分だったらあんなふうに言われたら、
ショックで倒れるにちがいない・・。

「ところで深谷、
マンドレイクに関して何か新しい情報はあるか?」

太陽は仕事モードに頭をすっかり切り替え、
蛍に聞いた。

すると蛍は、
「ああ、実はマンドレイクを埋めた場所がほぼ分かったかも」
と言ったので、
「え!?」
と、驚いた。

場所を探し出すのが一番の壁になると思っていた太陽からすると、
意外な展開である。

「父になんとか記憶をふりしぼらせて聞き出したんだ。
それで場所は
なんとなくだけど思い出したみたいで・・、
ただ・・」

「ただ?」

「前にも言ったように、
マンドレイクの周囲に張った結界が
かなり邪魔しているようなので、
目的物までたどりつけるかどうかまでは分からないと。
父も何度か過去に探しに行ったことがあったけど、
その度迷子になったり、天候が変わったりして
結局たどりつけなかったらしい」

せっかく場所が分かったのに、
結界のためにたどりつけないなんて、
全く困った話である。

太陽は「う〜ん」と腕組みをしながら、
「それなら、
結界を張ったヤツに解いてもらうことはできないのか?」
と蛍に提案すると、
「それが、どこの誰か分からないそうだ」
と答えたので、
ひまわりと太陽は「え?」と声を上げた。

「父の知人が紹介してくれた人らしいけど、
ちょうど旅の途中でこの町に滞在していた時に
お願いしたそうだ。
特に出身や名前など詳しいことまでは、
当時聞き出さなかったと・・・」

どこの誰かも分からない魔術師・・

誰も近づけないほどの強い結界を
張ることができるなんて、
よっぽどすごい魔力を持っている人物なのだろう。

ひまわりは顔も分からない魔術師を
想像してみてポツリとつぶやいた。

「不思議な人ですね・・・」

結界をその魔術師に解いてもらうことは
不可能に近いことを知った太陽は、
「となると、
やっぱり自分達で結界を破るしかないみたいだな」
とつぶやいた。

「自分達」と言っているものの、
ほぼ99%はひまわりががんばることになりそうだ・・。

「よし!じゃあ、
今日の放課後にさっそく現場に行ってみるぞ!」

「えっ!?今日!?」

太陽の提案に思わずびっくりして声が出たひまわり。

「なんだ?何か都合が悪いのか?」

「いや・・その・・まだ杖を使いこなせてないので・・」

そう言って手に持っていた袋に入った杖を
太陽と蛍に恐る恐る見せた。

杖ももちろんまだ使いこなせてないが、
魔法自体もどうやって使うかも
まだ何もつかんでない状態なのに、
「結界」やら
「引き抜くとき恐ろしい声を出すマンドレイク」など
不安材料が満載な場所に、
進んでいくほどの勇気が無い。

不安のあまり顔が青くなっていると、
「またいつものクセが始まった」と太陽は思ったのか、
ため息を大きく1つついた。

「ひまわり」

「ハイ!」

「心配するな」

「ハイ?」

太陽はドンと自分の胸を軽く叩き、
「何かあった時は、おれが何とかするから」
と自信満々に言った。

「・・・・・」

無言の沈黙が数秒続いた後、
「なぜ黙る!」
と太陽が叫んだ。

せっかく自分ががんばろうと宣言したのに、
ひまわりと蛍が全く無反応だったため、
太陽のプライドは傷つけられたのだ。

蛍はひまわりと顔を見合わせ、
「だってねえ・・あてにならなそうだから」
とさらにプライドをえぐるようなことを言ったので、
その後、太陽の機嫌がしばらく悪かったことは
言うまでもない・・。

放課後、
ひまわりはあわてて家に一度帰ってきた。

今から魔法の薬草である「マンドレイク」を
探しに行くわけだが、
なにが起こるか分からない。

その時、少しでも魔法の力を借りることができれば、
ピンチに陥った時、皆を助けることができるかもしれない。

そう思ったら何もしないよりは、
朝見た夢のお告げを信じてみようかと思ったのだ。

「ええと・・夢では、
書庫に古い本があるって言ってたけど・・」

ひまわりの家で「書庫」といえば、
地下にある大きな書庫になる。
何千冊と占いに関する本などが保管されていて、
ちょっとした図書館のようであるが、
暗くてカビ臭いので、
ひまわりはめったに近づかない場所だ。

木製のドアをキーッと開けると、
例のカビ臭い匂いがツーンと鼻に入ってきた。

パチンと明かりを点ける。

たくさんの書物がずら〜っと目に飛び込んできた。

太陽達との待ち合わせ時間に間に合うには
あと15分ほどしかない。
それまでに何とか本を見つけ出さなくてはならないが、
大量の本を目の前にしては、
どこをどう探せばいいのかも分からず
すでに途方に暮れてしまったような状態だ。

「一応・・魔法の杖も持ってきてみましたけど・・」

ちらっと杖を見てみたが、
どこも変わった様子はない。

「杖が反応して見つけ出してくれるわけでもないんですね・・」

「ハア・・」と大きなため息を1つついたが、
そんなヒマもないので、
とりあえずそれらしき本を探し始めた。

5分、10分・・と、あっという間に時間は過ぎ、
家を出る時間が押し迫ってくる。
手当たり次第引っ張り出した本が
床に散乱していて、
その真ん中でひまわりはヨロヨロと座り込んだ。

「だめ・・全然見つからない・・・」

悲しくなった。

やっぱりあの夢はただの「夢」で、
この書庫に魔法の杖の使い方の本なんかあるわけがない。
もしあったとしても、
それを見つけ出せるほどの力が
自分には無いのだ。

約束の時間が迫るので、
ひまわりは少し涙を目に潤ませながら、
「あきらめましょう・・、
やっぱり私にはこの杖を使うだけの資格がないんです・・・」
と立ち上がった。

その時だ。

杖が突然パアッと光りだした。

「!?」

あまりのまぶしさに目を閉じたひまわりだったが、
そっと目を開けてみると、
自分とまっすぐ直線でつながる本棚に
黄金色に輝いている本が一冊見えた。

「え!本が光ってます!?」

あわててその本を棚から引っ張り出し、
表紙を見てみる。

が、表紙に書かれている文字は
今まで見たことがないような言語で、
全く読めない。

「え・・何これ?
せっかく見つけたのに、読めなかったら全く意味無いですよ・・・」

パラパラと中身をめくってみるが、
やはり中の文字も全く読めないものばかりだ。
唯一分かったのは、
最初のページに「太陽」、
最後のページに「月」の絵が載っていることぐらいである。

その「月」のページを見たとき、
あることに気づいた。

全く読めない文字ばかりなのに、
なぜか月のページのところにだけ「THE MOON」と
英語の文字が書かれていた。

「え?なんでだろう?
ここだけ英語で『MOON』って書いてるなんて・・」
と、ひまわりがつぶやいた瞬間、
また杖がカッと光った。

と同時に、急にみるみる小さくなっていくではないか!?

「!?」

そして気づいた時には、
ひまわりの手のひらに載るぐらいのサイズ、
4,5センチぐらいの大きさになっていた。

あんなに必死に願っても
全く小さくなることがなかった杖が
急に小さくなったので、

「わ〜っ!?ど、どうしましょう!?」
と、パニックになっているひまわり。

その時だ。

「おい、ひまわり」

そう呼ばれて突然、肩をポンと叩かれたので
びっくりするぐらいひまわりは
飛び上がってしまった。

ふり返ると、兄がいつの間にか
書庫に入ってきているではないか。

「お、お兄ちゃん!?」

「おまえ、何してるんだ?」

ひまわりは、あわてて本と小さくなった杖を後に隠し、
「な、なんでもないよ!
あ!私、もう出かけなきゃ!!」
とあきらかに変な様子で書庫を出て行こうとするので、
兄は不信な目を向ける。

「ひまわり」

兄に呼び止められ、ビクッと足を止める。

「おまえに何か危険が迫ってきてるみたいだぞ」

「え!?」

兄が冗談で急にこんなことを
言っているわけではないことを
ひまわりは知っている。

というのも、
兄には昔から予知能力的なものがあるようで、
今までも何かしらよからぬ前兆がある時など、
何度か忠告され当たったことも多いので、
今回の言葉も無視はできないようだ。

「え・・危険って・・」

兄はじーっとひまわりの顔を見つめると、
「おまえ、何か自分の能力以上のことを
やろうとしてないか?」
と言ってきたので、
『ひっ!もしかしてマンドレイクを引っこ抜くこと!?』
と心の中で叫んだ。

まさに能力以上のことである。

「そ・・それって・・やめた方がいいってことなの?」
ひまわりは恐る恐る聞いてみた。

「そりゃ、やめたほうがいいな。身のためにも」

「で、でも、やめるわけにはいかない場合は!?」

いつもなら「やめろ」と言ったら
素直に従うひまわりが、
珍しくくいかかってくるので、
兄としてはさらに不安になってくる。

「ひまわり・・。
普段なら大人しく言うこと聞いてるのに、
今回はやけに反抗してくるじゃないか。
ほんとに、何があるんだ?」

「えっ!?」

実はこうです、と本当のことを言いたいところだが、
「魔法」だの「結界」だの
そんな夢物語みたいなことを話しても
たぶん兄は信じてくれないと思うし、
バカにされるだけのような気がして、
ひまわりは冷や汗をダラダラ流しながら口をつぐんでいる。

そんな態度を見た兄は、
「ふ〜っ」とあきらめたようなため息をつくと、
「何があるのかは知らないけど、
危険から身を守るヒントはある」
と言って、1枚のタロットカードを差し出した。

「『THE SUN』、つまり『太陽』だ」

「太陽・・?」

ひまわりは「太陽」のカードを受け取りながら、兄の顔を見た。

「おまえが大切にしているタロットカード、
いつもちゃんと保管しているのに、
このカードだけがさっきそこの床に落ちていたんだ。
拾って触れたときに、ハッと感じたな。
これはきっと、『太陽』のカードの意味するものが
ひまわりを守ってくれるって」

「太陽のカードが意味するもの・・・」

ひまわりは『THE SUN』のカードを
じっと見つめた。

「それより、ほんとに何しに行くんだ?
さっきからずっと聞いてるけど」

兄のその言葉に、ハッと我に返る。

時計を見ると、約束の時間をとっくに越えているではないか。

ひまわりは、カードと杖と本をガシッとつかむと、
「私、急ぐからとりあえず行って来ます〜!!」
と言うと、大あわてで家を飛び出した。

「あ!おい!?ひまわり!
だから、何の用かって何度も聞いてるだろ〜!!
帰って来い!!」

兄の声は、ひまわりには届かなかった。

ひまわりは走りながら考える。

「危険を救ってくれるヒントが『太陽』・・・。
太陽って太陽って・・・どの太陽なんだろう・・」

「遅い!」

待ち合わせ時間を
すでに30分ほど過ぎてやって来たひまわりに、
太陽はイライラを通り越して
本格的に怒っているようだ。

超機嫌の悪そうな太陽を見て、
「す、すいません!」
と必死にあやまっていると横から蛍が、
「どうかしたの?何かあった?ひまわりちゃん」
と声をかけてきた。

ひまわりは手に持っていた例の本を2人に見せると、
「じつは・・・」
とさっき起こった出来事を説明し始めた。

ひまわりの話を聞いた2人は
「え!?」と声をあげてびっくりする。

「おっ、おまえ!
なんでそんな重要な夢の話を黙っていたんだ!!」

太陽に怒られて、さらにびびるひまわり。

「だ、だって、そんなに大した夢じゃないと思って・・」

「大したこと無いことないわよ」

蛍が間に入る。

「『予知夢』って聞いたことあるでしょ?」

「予知夢?」

「ひまわりちゃんみたいに、
特に魔力を持っている人の場合、
夢に大きなメッセージが隠されている時があるのよ」

「メッセージ・・」

まさか、夢にそんな力があるとは
夢にも思わなかった。

「で、その本が夢が意味していたものなんだな」

太陽はひまわりが手に握っている
古い本をじーっと見つめた。

「で、めくっていたら杖が小さくなった、と」

ひまわりは中をパラパラと開き皆に見せる。

「めくっていたというか、
ほら文字が全部読めないんですよ」

2人も本を覗き込んでみるが、
確かに全く見たことがない言語なので何も読めない。

「でも・・ここ」

ラストページの「月」の絵の部分を見せ、
「この月の絵のところだけ『THE MOON』と
アルファベットで書いていたから、思わずつぶやいたんです」
と説明した。

「すると、杖が小さくなったのか?」

「そーなんです!」

ひまわりの説明を聞いた蛍は、
「じゃ、もしかして
杖を小さくする呪文は『MOON』じゃないの?」
と言うと、太陽もうなずく。

「その可能性は高いな。
しかも、本のラストページに『月の絵』があるというのも、
『MOON』でおしまい、
つまり魔法使用終了、ということを意味してそうだし」

「と、すると・・」

パラパラと最初のページに戻ってみる。
そこには「月」と対になる「太陽」の絵が描いてある。

太陽は興奮気味に、
「おしまいが『MOON』なら、
始まりは『SUN』。
つまり、杖を目覚めさせる呪文は『SUN』じゃないのか!?」
と言ったため、

ひまわりと蛍もハッとする。

「よし、ひまわり!
杖に向かって『SUN』って呼びかけてみろ」

太陽にそう言われたため、
ひまわりは大きな声で「SUN!」と叫んでみた。

そのかけ声によって、
杖が目覚めて大きくなるものだと
三人は期待して待っていた。

が・・、
杖は予想に反して全く何の変化も見せなかったのだ。

「あ・・あれ?」

ひまわりが首をかしげていると、
横から太陽が、
「ひまわり!
おまえ、手を抜いたな!」
と言ってきたので、
「ぬ、抜いてないです!」
と必死に否定した。

だいたい、
魔法の使い方がまだよく分からないので
どういう状態が手を抜いているというのか
よく分からないが、それでもおかしい。

兄の言った通り、
占いでも『太陽』がキーワードだったので、
恐らく呪文は『太陽=SUN』が
少なからずは関係しているはずなのだが・・。

そうこうしているうちに、
いつのまにか日はどっぷり暮れてしまい、
3人が目的地の裏山に上り始めた時は
辺りはもう真っ暗になっていた。

マンドレイクが埋まっているという裏山は
それほど大きな山ではないのだが、
あまり人が来ないのか、
道の横側にはうっそうと草が生い茂っている。

木々も手入れされてないので、
折れた枝などが
道をふさいでいる場所もあった。

5分ほど歩くと、
生い茂る草木に隠れるように
色あせた古い鳥居がちょこんと見えてきた。

気をつけていないと
見落としてしまうほど目立たない鳥居で、
かなり老朽化が進んでいるのと、
真っ暗な夜に見るせいか、
神聖な建物のはずなのに、
ちょっと薄気味悪い感じがする。

「深谷、
まじでこの鳥居の奥に進むのか?
うっそうと草が生い茂っていて、
道なんてほとんど見えない状態だぞ」

太陽がそう言うと、蛍はうなずき、
「そうよ、この奥にマンドレイクを植えたらしいの」
とさらっと答えた。

「一応、鳥居がある通り神社は神社だけど、
今はだれも管理する人がいなくなって
荒れ放題みたいね。
だから魔法の薬草を植えるのには
もってこいの場所だったみたい」

とはいえ、
真っ暗な中で見る
荒れ果てた鳥居と神社は気味悪く、
ひまわりはガクガク震えながら、
「な・・なんか幽霊とか
出そうな雰囲気ですね・・」
とつぶやいた。

「そうね、なんか良くない気のようなものは
さっきから感じてるけど・・」
と言って蛍は二人の方に振り返る。

「2人は感じないの?」

そう聞かれ、ひまわりと太陽はコクリとうなずく。

「はあ・・霊とか見たことないので・・」

「おれも」

どうやら霊感があるのは、
蛍だけのようだ。

「ま、とりあえず中に入ってみようぜ」

そう言って太陽がズンズンと
鳥居をくぐって中に入っていく。
つづいて蛍も物怖じせずに入っていく。

それを見ていたひまわりは、
2人の勇気に感心すると共に、
自分の勇気の無さにしょげていた。

「あ・・あの・・私、怖いので
一番後ろからついていっていいですか?」

ひまわりが青い顔をしながら言ったので、
太陽は「ふ〜」とため息をつくと、
「相変わらず怖がりだな。
じゃあ、ちゃんと後からついてこいよ」
と言って再び歩き出した。

2人の後から恐る恐るついていくひまわり。

その時だ。
ふと耳元で何かがささやいたような気がした。

『やっと、いい獲物が来た・・』

「え?」

振り返った瞬間、
突然さーっと意識が遠のいていく・・・・




(つづく)